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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと
まづるは、私など見限ったはずだ。
私が彼女を眠らせたあと、ナイフを取りに戻った隙に、メイドが入れ替わっていた。まづるに執心していた、身のほど知らずな例のメイドだ。
毒薬の投与を考えた。私が肉叢に白刃を通すと、規則正しかったメイドの呼吸が僅かに乱れたからだ。とても肉体の一部のみを切り落とそうという気になれなかった。いっそ息の根を止めてしまわなければ、醜悪な女がいやが上にも醜悪に悶える姿まで見せつけられる羽目になったろう。さすれば、私はまづるを食している空想から引きずり戻されることになる。
想像力がもたらす快楽は、完全でなければいけない。
あのメイドをまづると思い込むことによって、私は一生分の快楽を貪った。独善的な行為であれ、まづるを私のものにするため、嚥下した。
「私のことなんて、どうだって、良いくせに……」
「──……」
「お兄様とは別れたわ。稜とも、この通り」
私は左手を掲げてみせた。
まづるの顔は、いつか私が彼女をからかった時と同じ、余裕に満ちている。
「略奪という不実を愉しみにしている、貴女にとって、私は花澤さんや三井田さん達に比べれば、どんな価値もないはず……」
私も余裕だ。
世間は、私をお兄様の配偶者として見ている。
私はそれがまづるにとって魅力だろうと、いつも彼女をなじっては、彼女の本心を確かめて、その言葉に舞い上がっていた。
「違うよ」
まづるが私の片手をとって、炫耀をなくした一点に唇を寄せた。
「愛してる」
「っっ、……」
「姫猫こそ、貴女にとって私は価値がなくなった。貴女が欲しくなったから。貴女が私を殺したくなったのだって、仕方ないよ。私は姫猫にとって、不道徳的な想いを持ってしまったんだから」
「まづる……っ」
「姫猫が初めて。……」
…──私のためにいなくなった彼女のためにも、これだけは伝えておきたかったんだ。
消えそうなささめきを残して、触れるか触れないかほどのキスが離れた。