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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと

「…………」



 ああ、彼女の指は最高だ。


 私の片手はただ掬い上げられただけで、腹の奥まで甘ったるいもどかしさが染み通る。


「あんなものを、……口にさせるなんて」

「──……」

「最悪だったわ。庶民の女の味、なんて」

「…………」

「私と同じ、いいえ、私の足許にも及ばない、貴女を愛する女の血肉の味なんて、最悪だったわ」



「…………」


 私は、まづるの所作を反芻した。

 しとやかな繊手、私の官能を戦慄させた指を捕らえてキスを押しつける。

 ただし私の唇が寄せられたのは、薬指の根元ではない。まづるの、彼女曰く不道徳的なまことを語ったその唇だ。



 道徳も、不道徳も存在しない。

 お父様は、自然をこそ肯定していた。

 自然は移ろう。自然を全知しない人間は、快楽を拒絶出来ないのと同様、自然に懐柔されている。自然に懐柔されていれば、無常な自然に倣っていてもおかしくない。


 誰かを所有すること、所有されること。誰かを思い慕うこと、渇望すること、その誰かに酷愛をいだくこと。


 私は、とっくに私の禁忌を犯していた。私の禁忌は、慕情、渇望、酷愛をしのいでまで守るべき値打ちはなかった。


 相手がまづるの場合に限って。…………
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