この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
淫徳のスゝメ
第1章 私が淫蕩に耽るまでのこと
* * * * * * *
私の実父、仏野聖司(ふつのせいじ)は国内でも上流層の財閥家だ。その交友関係は国家権力者から裏社会のはぐれ者らまで幅広く、また、どうやら庶民らには不景気と不評らしいこのご時世に、面白可笑しく開業した新たな事業まで軌道に乗せた実業家肌だ。
仏野聖司が発言して、難色を示す輩など、天皇家と内閣くらいだ。否、彼らとてお父様の内密な友人らが働きかければ屈服せざるを得まいし、もとよりお父様自身が財布の紐さえ緩めれば、大抵のことは穏便に済む。
そうしたお父様の一人娘、私、仏野姫猫(ふつのきてぃ)は、何不自由なく暮らしていた。
優しく美しいお母様に、私の妹──…仏野きよら。彼女らと、そしてたまに帰宅しては、陽気に振る舞うお兄様と共に。
ところが遡ること一年ほど前、幸福な私達一家を悲劇が襲った。
お父様の完全無欠な命運も、人脈も、富にさえ、その悲劇は砕けなかった。