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淫徳のスゝメ
第2章 私が享楽的親友に出逢うまでのこと
ピーカンナッツの練り込まれたスノーボールにかぶりついた時、ふっと、鼈甲色の水面から昇っていたフレグランスが濃密になった。
違う。
私を抱いたのは、薔薇の匂いではない。
「可愛い仔猫さん」
まともに唾液を含まなかった菓子の欠片が、私の喉につっかえた。
「っっ……」
「ご機嫌よう。初めまして、姫猫さんでしょ?あんまり美味しそうに召し上がっているから、声、かけるのもったいなかったかも」
「あ、……」
「早良まづるです。遅くなってごめんね。綺麗なお嬢さんをダシにして、娘の家出を強制終了させたお父様に、ちょっとした仕返しをしたくて」
清冽な瞳を飾った奥二重の双眸に、桜色散りばむ艶肌、たわやかで可憐ないかにも箱入り娘の気品をまとった令嬢は、それでいてそこいらの美少女であれば見飽きていたくらいの私の目を奪った。
その装束は、些か時代にとり残された風なトーションレースに、チョコレート色の無地のコットンの丸襟ブラウス、オーガンジーのレースに帽子のステッチ入りの黒いジャケット、チェック柄のフレアスカート──…ロリィタとまではいかなきにせよ、流行もどこ吹く風である。
彼女は、これだけ肌を隠していても、健康的なまろみがあった。肉体美にはらりとかかる、ロイヤルミルクティーの色の巻き毛。ふわふわと胸に下りたミディアムヘアは、彼女の人となりを物語っているようでもあった。