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わたしはショートケーキが嫌い
第3章 殺人犯とJK
私は包丁の持ち手を震える手で握った。
手の平に汗が溜まっているのが分かる。
男の言う事は奇想天外だけど、確かに私は逃げられる。
逃げた先にママとパパはいない。
私を襲う恐怖はない。
ーーーショートケーキを食べる必要もない。
正当防衛が認められれば晴れて私は自由だ。
何かに怖がることもない生活を送れる。
だから今ここでこいつを刺せば‥‥‥。
「‥‥‥できない‥‥‥」
包丁から手を離すとポスっと軽い音をたててベッドのシーツの上に落ちた。
男は俯く私に言った。
「美咲ちゃん、僕は君を殺さないよ?それだけは信じて。逃げたくなったらいつでも逃げていいから」
逃げたくなったらいつでも逃げていいから。
どうしてこいつはこんなにも捨て身なんだ。
分からないことが多すぎる。
分からないことが多すぎるから怖い。
本当は刺したかった。
けど刺さなかったのは、ただ単に殺す勇気がなかったから。
刺しどころが悪くて相手が死んだらとか、そんな事を考えたら刺せなかった。
私は自分の手が汚れることを恐れて嫌がっただけ。
完璧な被害者でいたいだけ。