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わたしはショートケーキが嫌い
第9章 昔々、ある所に
目の前に広がる光景と血塗れの手を見て僕が思ったことは、全てが遅すぎた。
美咲ちゃんを誘拐して1週間が経った。
この1週間で美咲ちゃんは痩せこけた。
頬骨は突き出て、目の下にはクマが広がり、鎖骨は浮き出ている。
精神的に参ると人はこんなにも痩せるのかと、痛々しい姿の彼女を見るたびに申し訳なく思う。
相変わらず美咲ちゃんは林檎しか食べない。
そして一日に何回も繰り返しシャワーを浴びる。
いくら僕が臭くないよと言っても、臭い臭いと騒ぎ苛々している美咲ちゃん。
おまけに指先も気持ち悪いと悩んでいた。
確実に精神を蝕まれていた。
救い出すはずが美咲ちゃんを苦しませている。
「‥‥‥そう言えば」
廃人のようにボーッとしていた美咲ちゃんが言葉を発し、僕を見た。
少しくすんだ瞳に、僕がぼやけて映る。
「あなたの名前まだ聞いてない」
「‥‥知らなくていいよ」
名前を知りたがる彼女にそれだけ答えて、僕は笑った。
そんな僕の笑顔を見て美咲ちゃんは言った。
「あなたはたまに、お面みたいに笑うわね」
彼女の言葉に僕は笑顔を崩した。