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わたしはショートケーキが嫌い
第9章 昔々、ある所に
話し始めた僕をクスッと笑いながら見て、話に耳を傾ける美咲ちゃんの横顔は“あの人”にそっくりだった。
「けれども、お母さんはスーパーマザコン君の事が嫌いでした。理由は一夜限りの関係の相手との間に出来てしまった子供だったからです。望まぬ妊娠にお母さんは絶望していました。一度は中絶も考えていましたが、お金がありませんでした。そして仕方なく生み落とされた子供がスーパーマザコン君でした」
サラサラ話す僕の隣で、美咲ちゃんは眉間にシワを寄せながら話を聞いていた。
その表情は“同情”そのものだった。
僕から言わせれば、美咲ちゃんの境遇のほうがよっぽど悲惨だ。
これくらい漫画やドラマで空想出来る程度の出来事だ。
君と比べたらこれくらい何ともない。
「スーパーマザコン君はどんな仕打ちをされてもお母さんが大好きでした。理由はありません。その人が母親だから大好きでした。たった一人の血縁者だからです。けれども、どんなにスーパーマザコン君がお母さんを愛しても、お母さんがスーパーマザコン君を愛することはありませんでした」
「‥‥‥今お母さんはどうしてるの?」
「今はねぇ、もういないよ」
「病気か何かで亡くなられたの?」
死亡原因を聞いてきた彼女に僕は笑いながら教えてあげた。
“あの人”が最期まで嫌ったお面みたいな笑顔を顔に貼り付けながら。
「僕が殺したから」
ボトンと、雫が台所のシンクの中に落ちた音がした。