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わたしはショートケーキが嫌い
第9章 昔々、ある所に
時間が止まる。
音が消え去る。
まるでサイレント映画のように。
「‥‥愛してたのよね?」
音も時間も無くなり消えていた二人の空間に言葉と動作を加えたのは、目を見開いて僕を見る美咲ちゃんだった。
それはそれは驚いた顔をしていた。
そんな顔まで“あの人”に似ている。
ああ、憎らしいやら愛くるしいやら。
「愛してたよ?愛して愛して、愛してた」
しつこいくらいに『愛』と言う言葉を繰り返した。
嘘ではなく、本当に愛していたから。
「あなたの言う殺したは間接的な意味?それとも直接的な意味?」
「ん〜、直接的かなぁ」
どんな言葉も曖昧にしてしまう『かなぁ』と言うヘラヘラした言葉の飾りを語尾に付けて答えたが、間違いなく直接的だ。
『かなぁ』と言葉をボヤかした理由は、心のどこかで事故であってほしいと言う身勝手で最低な僕の願望が未だに消えていないからだ。
けど、どれだけ願っても間違いなく僕が殺した。
そうだよ。僕は前から人殺しだ。
ただの人殺しだ。
「お母さんはただの一度も僕を愛さなかった。頭を撫でてくれなかった。抱きしめてくれなかった。お母さんの隣はいつだって‥‥‥」
今までの思いがダムのように溢れ出して止まらず、僕は勢いに任せて言いそうになってしまった。
だから急いで吐き出しそうになった名前を飲み込んだ。
ズルルと飲み込まれた名前が僕の喉に爪を立てて落ちていく。
腹の底まで落ちてズシンと鈍く着地した。