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帝警備淫夢譚
第12章 城田美和、秘密特訓に励む
畳部屋、越後屋の当主、越後屋太兵衛が座している。
太兵衛の前には膳が一つ。料理はもう食べ終えている。
太兵衛にしだれながら酌をする女…私。
しきりに酒をすすめる。

「こんな田舎宿に美和殿のような美女がいるとは思いもせなんだ。お代官様に呼び出された時は、面倒な場所に…と思ったが、いやはや、私はつくづく運の良い男よ」

笑う太兵衛は壮年の男性。
俳優だと紹介されれば誰もが納得する程の美男で、彫深く、程よく焼けた肌、涼やかな目元に、どことなく憂いを漂わせている。長身で、商人の割には逞しい体つき。

晩夏の夕暮れ。蜩が鳴いている。
太兵衛も私も、温泉浴衣。

「私の方こそ、あなた様のような素敵なお方に出会うなんて…」

湿度が高い。生暖かい風が時折部屋を通り過ぎていく。

私は少しだけ開いた浴衣の襟元を扇子で仰ぐ。
首筋から一筋の汗が谷間に流れる。それを太兵衛に見せつけてから、隠すように襟を正す。
目を逸らす太兵衛。

「それで美和殿はお宮参りを済まされたのか?」

「ええ、お陰様で。ご利益でしょうかね?あなた様とこうしてお会いできたのは…」

引込みつつ突き放しつつ、また引込む。

太兵衛にも風を送りつつ、酌をする。盃が干される。太兵衛一人で半升は飲んだろう。そろそろ落ちるはずだ。
悪代官から渡された帳簿が彼の風呂敷の中に収まっていることは確認済み。酔って気を失えば、さらりと持ち出して任務完了。もう少し…。

「あら…」

太兵衛の手のひらが、浴衣の裾を割って太腿に触れる。
じっとりとした手のひらが、私の膝頭から内腿を舐めていく。

「お戯れを、太兵衛様。私などより美酒に酔って下さいな」

手をやんわりと返し、もう一度酌をする。
太兵衛もそれ以上強引にはしない。

「美和殿の美しさに、手が堪えられなかったようだ」

力付くでどうにかされるってことは無さそうね。
まあ…私はくノ一。一介の商人に手籠めにされることはないのだけど。

「まだ日が高うございます、もう少しお酒を楽しみましょう」
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