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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第1章 幽霊屋敷にお姫様
それにしても綺麗な声だな──。
ソプラノの高音が耳に心地いい。
「……ふぅ」
あそこにいるのが幽霊なら、唄を聴く者の魂を吸いとってしまうつもりだろうか。
それなら僕は もう手遅れと言うことか。
“ まぁ、いいけれど ”
あまり自分は生にしがみつくタイプじゃない。
終わるなら…ここで終わっても構わない。
カタン
でもせっかくここで死ぬのなら、せめて幽霊の顔は拝まなければ。
そう思い至ったスミヤは、わざと物音を立てることにした。
《 ──…! 》
唄が止まる
バルコニーに立つ¨彼女¨が、此方に振り向く
「へぇ…」
スミヤは感心した。
その幽霊は、期待を裏切らない美しさだったから。
白いワンピース
プラチナブロンドの長く揺れる髪──。
頼りなげな、華奢な脚。
…靴も履かないその足は、雨に濡れて、僅かに泥が付いていた。