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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第1章 幽霊屋敷にお姫様
無言の彼女は、怯えているだけじゃない。
──困惑している。僕の言葉に。
“ いったい何が…そんなに…… ”
「どうして君は…」
「──…リリア!?」
突然 部屋に入ってきたブレットが、スミヤの背後で叫んだ。
叫んだその名は十中八九──この娘の名前だろう。
「どうしたんだ?何故1階に降りてきたんだ」
「…っ…ブレット氏、その子は…?」
「あ、…ああ、すまないね」
バルコニーの彼女の腕を取って部屋に引き入れた彼は、冷静ではなかった。
スミヤに問われてやっと我に返ったのか、作り笑いを顔に貼り付けた───バレバレだ。
「この子はリリアだ。今は我々と住んでいる」
「失礼ですが、肉親なのですか?」
「…っ…いや、そうではない」
ブレット氏が答えている間、彼の背中に隠された彼女は、動きもしないし喋りもしない。
「リリアはもともと、寄港した客船の歌姫として働いていた。だが…──」
「……」
「──…不運なことに、声を失ってね」
「声を…?」
ここでスミヤが怪訝な顔をしたのも無理はない。
だがブレット氏はそれを見ておらず、少女の背を押して上階へ行くように促していた。