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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第3章 話してごらん
「そこまで不思議がることかな」
べつに彼女は声を失ったわけじゃない…。
ただその声の波長が、常人に届かない特種な領域にあるだけだ。
「僕は仕事柄、音には敏感だし…あと、そうだな」
スミヤは言葉途中で彼女から目を離すと、左手に置かれているピアノに手を添えた。
♪~
鍵盤に指を滑らせ、先程までリリアが演奏していた曲の前奏部分を簡単に弾いてみる。
「──…小さいころピアノを嗜んでいてね。…そのついでに、調律の勉強もしていたし」
「……!」
「だから可聴域は、広いほうだ。…これで納得していただけますか?お姫様?」
おとぼけた口調で、彼女に問いかけるスミヤ。
この時やっと、リリアの顔は困惑から驚きへと変わっていた。
スミヤの言葉を信じたのだ。
彼女の手がドアノブから離れる。
おそるおそるピアノの側まで戻ってきた。