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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第3章 話してごらん
長い間、誰にも声を¨聞き取ってもらえなかった¨リリアは想いを口にするのが苦手なのだろう。
またもや無言に戻り、ピアノの鍵盤に手を添えて立つスミヤをそっと見上げた。
リリアも彼に対して興味を抱い( イダイ )ているのだ…それがわかる目付きだった。
「……」
「……フフ」
見詰められている最中、スミヤは自信たっぷりにその魅力を押し出した優美な笑顔を顔に張り付けていた。
さぁ観察してごらん
僕は怖くないだろう?──と
猫の警戒心に囁きかける。
そうしていると彼女の強張った肩の力も抜けてきて、寄せていた眉根も徐々に戻っていくのだ。
そして相手を見定めようとするリリアの視線は、最終的に鍵盤へと移った。
“ …よし、これで完成かな ”
これこそがスミヤの作戦だ。
突然現れた見ず知らずの男が、たったひとりの友人( ピアノ )と上手く戯れている光景──
これで彼女の警戒は、晩春の桜のごとく散っただろう。