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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第3章 話してごらん
曲が終わる頃には──涙を溢していた。
「……」
スミヤでなく、リリアのほうが。
泣きながら歌うなんて器用な子だ。
だが涙の理由はゆうに想像できる。
スミヤは敢えて、どうしたのかと尋ねるようなことはしなかった。
ポロロン...
「──…ありがとう、リリア」
「…、…グスっ、……ぅ…」
楽譜を閉じ、座ったまま身体の向きを回転させる。
向き合う二人の顔の高さは、ちょうど頭ひとつぶんリリアのほうが高かった。
「とても上手だね。さすが客船の歌姫様だ」
スミヤが手を差し出すと、彼女の両手が胸の前でそれを掴む。
だから彼も握り返した。
「まぁ少しだけ小言を言うと…ここと…ここのキーかな、君が苦手なのは」
「……っ」
「聴いてくれる相手がいないと練習もし辛かったろうしね。明日も僕が聴きに来てもいいかい?」
彼が何か話しかけるたびに、リリアの涙腺は決壊を促され、修復不能になっていく。