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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第4章 身代わり
少女は太ももに置いた手をぎゅっと握る。
その肩が震え始めたのは、男の目にも明らかだ。
「二人でピアノを弾いている…とか。楽しげなメロディーが部屋から聞こえてくると皆、喜んでいる」
うつむく彼女を尻目に男は櫛を置き、窓のほうへと歩く。
カーテンを開ければ、珍しく空から覗いている月が部屋の中に静かな光を落としこんだ。
こじんまりとした部屋の中──そこに置かれたベッドや書棚、アップライトピアノが柔らかく照らされる。
《 …ブレット様!待ってくださいっ…わたし 》
「──…ッその声は止めなさい!」
《 ……!! 》
「…おお…何だと言うのだ……私への当て付けなのか?耳が痛い」
キンキンと耳鳴りに似た現象に襲われて、顔をしかめた男。
彼は扉を開け、自室へ繋がる隠し通路へ出た。
「──…もう寝る時間だ…おやすみ、リリア」
そして彼は扉を閉める。
続けて聞こえたカチリという音が、残された少女を絶望の世界へと閉じ込めた──。