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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第4章 身代わり
そして目の前の大樹は、大きさこそ違えど東城家に植えられたものと同じ木であった。
スミヤは過去を懐かしむ。
まだ7歳の弟、ハルトが、何を思ったかその木に登り…そして降りられなくなっていた。
涙ぐんでも助けを求めない強情な弟──
その表情が面白くて、かつてのスミヤはしばらく見上げていた。
そして、その現場に通りすがった兄のカルロ。
枝が揺れる木を見上げ
そして…兄は無言で立ち去った。
“ あの頃はすでに、…兄さんは変わったいた ”
面倒見のよい兄の姿は、既にそこになかった。
あの時のカルロの目は確かに、枝にしがみつくハルトをとらえた筈なのに
…彼の視線は一瞬たりともそこで止まらなかった。
同じなんだ……兄さんにとっては、木も空も、僕達も。ただの風景で、関心に止まることはない。