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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第4章 身代わり
これで十分だろうと判断したスミヤは、突き付けていた短銃の安全装置をはめ直した。
銃を収めてマリアの背に手をまわし、すくんだ彼女の身体を起こしてやる。
「服が汚れてしまいましたね。雨が降っていないのが不幸中の幸いだ」
もし地面がぬかるんでいたらもっと酷い惨事だった。
スミヤはパタパタとスーツの泥をはらって立ち上がる。
「……」
「逃げないのですか?ひとりで戻るのが怖いなら仲間を呼んで寝室まで送らせますよ」
「……いいわ」
「なるほど…。つまり貴女は、まだ何か僕へ用事があるということか」
すっかり大人しくなったマリアは、スミヤの足許に座ったまま動かない。
対して、すっかり意地悪くなったスミヤは何か勘づいている口調である。
「…用事ってほどでもないけど…っ」
負けを認めるように溜め息をついたマリアは、迷ったあげく、ようやく話を切り出した。
「──…リリアの事よ」
「……」
スミヤは屋敷の周囲を警戒しつつ耳だけそちらに傾ける。