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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第4章 身代わり
「もうリリアに会ってるんでしょ?」
「……」
「隠しても無駄よ。父様の耳にも入っているし」
「隠しているつもりもないですよ」
スミヤは無線機を取り付けている耳を右から左へと変えた。
彼女の声を聞き取りやすくするためだ。
「…隠しているのは ¨ そちら側 ¨ では?」
「……ッ」
「そうでないと言うなら貴女から話して下さい。…確か、2年前に亡くなったブレット氏の奥方は世界的に有名なソプラノ歌手だったと聞いています」
「か…母様は……っ。──…いえ、あなたの言う、とおり……」
もうそこまで気付いてしまったのか。
母の事を出されたマリアは明らかに動揺し、目が泳いでいる。
しかしその表情もしだいに落ち着いて、彼女はゆっくり振り返ると背後の屋敷を見上げた。
「母様が死んで…──この家は呪われたのよ」
幽霊屋敷と揶揄( ヤユ )される我が家を、憎しみをこめた目を細めて見詰めていた。