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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第4章 身代わり
呪われた。
父も自分も、おかしくなってしまった。
「悲しむ父様を慰めたくて、船旅をしたわ。でもその客船には歌姫がいて──…」
当時のマリアは驚きで言葉も出なかった。
舞台で歌を披露する歳も近い少女──彼女の声が、死んだ母と瓜二つだったからだ。
しかし彼女より驚愕していた人が…
それが父だった。
少女に身寄りがないのをいいことに、父は客船の船長を騙してリリアを手に入れた。
「そして父様はあの子を……っ」
「身代わりという事ですね。…何故、貴女がそれを止めなかったのか疑問です」
「怖かったのよ…。リリアがいなくなれば、父様の標的がわたしに移るかもしれないって!」
本当は助けたかった。
でも怖かった。
リリアを手に入れてすっかり元気を取り戻した父が怖かったし、真相を追及する勇気もなかった。