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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第4章 身代わり
泣き叫ぶあの子の声が、聞こえたのに。
1階にいる使用人には聞こえなかったかもしれない。リリアの叫びを聞くことができたのは自分だけだったかもしれないのに…。
「でも──…だからかしらね…。あの子が声を失って、わたしはどこか安心したのかも」
この家に来てひと月もしないある日、リリアの声は出なくなっていた。
夜な夜な助けを求めていた彼女の声が消えたことで、ホッとしている自分がいたのだ。
.....
「それはむしの良い勘違いですよ…マリア?」
マリアの話に沈黙で返していたスミヤが
ふっと息を溢して
そして、優しい声色で諭した。
「リリアは声を失ったわけじゃない」
「……っ」
「彼女の悲鳴に耳を貸す者が─…誰ひとりいない、それだけのことです」
彼女は今も叫んでいる。届かないだけだ。
届かない悲鳴は…無惨にも、存在しないものとして片付けられる。
何も不思議なことではない。
いつの時代も、世界はそんな仕組みで保たれてきたから。
彼女はその犠牲者だ。
憐れだね…リリア。