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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第5章 任務終了
「もちろん他の階のカメラにも、連れ去られるリリアの姿は映っていません」
カメラを完全に避けるなんて、普通ならばあり得ない。
カメラの位置を熟知しているからこその犯行…それは、自分が犯人だと言っているも同然ではある。
けれど証拠がない。
「──…どうしてだ…!!」
ブレットはその場に崩れる寸前だ。
スミヤに掴みかかりたい衝動を抑えながら、額に手をやり、憤慨する。
「…わかった…!! もう、いい…!!」
彼はスミヤとやり合うのを諦め、細かく頷き必死に自分を納得させようとしているのか…。
「誘拐ということならば、¨犯人¨ の狙いは身代金だろう…!! いくらだ?いくら要求しているんだ?」
「──…」
しかしまだリリアを諦めてはいないようだ。
“ 往生際の悪い… ”
問われたスミヤは仕方なく
¨犯人¨ の代わりに答えることにした。
「一億ドル」
「‥‥な」
「それとも百億ドルにしておきますか?…さて、あなたは…──あの少女の人生を、いったいいくらで買い取るおつもりですか」
「…このッ…よくも…!!」
もはやブレットは言い返す言葉も出ないほどだ。
込み上げる怒りで喉が震える。
同じ様に震える拳で、目の前の青年を殴りそうになった時──
「──もうやめて父様!!」
娘のマリアが、彼の背後から叫んだ。