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夜這い生活
第2章 準備
孝之は元々黒系の服を着ることが多い。
孝之なりのおしゃれの、かっこつけのつもりのようだ。
だから闇に紛れた服装をこしらえるのにさほど労力はいらず、その気になればいつでも行動出来る。

バイト先から持ってきた軍手で、試しにベランダの手すりを握ってみる。
思った通り、これなら滑る心配もなく移動が出来そうだ。

……ドクン。

ベランダの柵を乗り越える。

ここは団地の四階だ。
風の音が妙に耳につく。
手足が震える。
一歩、また一歩と、彼女の部屋の方へ、ベランダの柵を横に移動する。
間の家を越え、彼女の家のベランダ前へ。

電気は消えている。
…寝ているのだろうか?

ドクン、ドクン、ドクン

心臓がうるさい。
風の音が止まない。

この向こうに彼女が……

その時、パッと彼女の家の電気が点いた。

頭が真っ白になる。
今度は心臓が破裂したような衝撃が孝之の体を貫く。

その後のことはよく覚えていない。
気がつくと自室に戻っていて、だらだらと流れる汗を拭わずにガタガタガタガタと震えていた。

「もう止めよう、もう止めよう…」

その夜、孝之は久しぶりに自慰をせずに過ごしたのだった。
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