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妖魔滅伝・真田幸村!
第1章 吉継の娘
女は、干からびた異形の死骸を尻尾で投げ捨てると、灯台に息を吹きかける。するとそこには火が灯り、暗闇をぼんやりと照らした。
「……まだ、いるな。しかもこれは、この雑魚とは比べ物にならない妖魔のようじゃ」
気配を辿り、女の狐耳がふるふると動く。
「ああ、助けてやるとも。儂は、異国の妖魔が、我が物顔で日ノ本を跋扈するのが気に食わぬのじゃ」
女は部屋に飾られていた打掛を羽織ると、部屋の襖を開く。辺りは静寂で、とても異形が忍び込んでいる様子には見えない。しかし女の狐耳は、激しく動いていた。
「それにしても、大きな屋敷じゃな。この打掛といい、お主はどこぞの姫君なのかえ? 名はなんと申す」
女が口を端を吊り上げれば、鋭い牙が見える。暗闇もものともせず、女は足を踏み出した。
「和紗(かずさ)か。儂は玉藻前(たまものまえ)、妖怪一の美女狐じゃ」
――時は乱世、戦国の世。決して記録には残らないが、この時代は人と魔が共に生きる世であった。
黄昏時が過ぎれば、そこからは魔の時間。それが当たり前とされた時代に石を投げたのは、第六天魔王と呼ばれた男であった。