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妖魔滅伝・真田幸村!
第1章 吉継の娘
信濃の山の景色はいつでも瞼の裏に焼き付いているが、信繁は京の賑やかな街並みも嫌いではない。日が昇れば、人質という立場も気にせず街に繰り出すのが、信繁の日常だった。
とはいえ、信繁が信濃の武将『真田昌幸』の次男であり、今の世を統べる豊臣の家臣の一人である事実も変わらない。信繁は真田屋敷を抜け出した後は、必ず『幸村』と偽名を名乗っていた。
本名は真田信繁、偽名は幸村。太閤・秀吉の時代に戦はなく、信繁が日頃囲碁で鍛える戦略眼を発揮する機会はない。京へ人質として送られて数年、いつの間にか信繁は、幸村と名乗る時間の方が増えていた。
この日も信繁――幸村は、街へ向かおうと武家屋敷の立ち並ぶ通りを歩いていた。その歩みを止めたのは生きのいい若者のはしゃいだ声だった。
「小十郎、これは好機だ! 大谷刑部の娘は絶世の美女と聞く。一目見てみたいとは思わないか」
頭のてっぺんで結われた髪は、癖毛なのか若干うねりがある。だがそれも洒落ていると思わせるくらい、派手な赤の衣装に身を包んでいた。そして何より目を引くのは、刀の鍔で出来た眼帯。その男が立て札を引っこ抜こうと握れば、連れの男は眉をひそめた。