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資料室の恋人
第9章 車窓の花火


「あ、ちょっと明里ー!」

日和が声をかけるが、小走りでササッと人を避けながら直也を引きずるように連れて人混みへと消えていった。

「俺たちはゆっくり行こうか」
「…そうですね」

大学の夏休みに入って2週間程が経ち、花火大会の日となっていた。航平は、明里が気を遣ってこの花火大会に誘ってくれたのだと分かっていたが、すでに振られているとは言えなかった。今こうして日和と2人きりで屋台を眺めながら歩いているのも、明里が気を遣ってわざとしたことだ。

「明里ちゃんは直也に綿あめねだってたよ」
「あー…明里、綿あめ好きなんですよ」

呆れたように笑った日和は、そこかしこにいるカップルを眺めながら呟く。

「…明里と直也って、いつくっつくんだろう…」
「俺も同じこと思ってた…!」

2人は顔を見合わせて笑うと、だよねと言ってまた笑った。

「お似合いだと思うんだけど」
「友達の期間が長いからですかね…家も近いし高校から一緒だったみたいです」
「きっかけがないとダメなのかなあ」

日和は、応援してるんですけどね、と少し恥ずかしそうに微笑んだ。

こういう時、可愛いと思う。
純粋で優しくて。
航平は、好きな人がいるという日和の言葉を思い出した。その相手にはどんな表情を見せるんだろう。

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