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資料室の恋人
第2章 C棟とエッフェル塔
「はい?」
「失礼します」
返事をすると、入ってきたのは経済学部の大月彩子先生だった。
片手にお菓子の缶を持っている。
「大月先生、どうされたんですか?」
「両親がフランスに旅行に行ったので、お土産をわたそうと思って」
缶の中には、エッフェル塔の形をしたチョコレートが、銀色の紙に包まれて詰まっていた。
「ありがとうございます」
佐倉は一つ手に取ると、お礼を言った。
大月先生は、いえいえと言って笑うと、あの、と続けた。
「今日って仕事終わってからお時間空いてます?他の先生方とご飯に行こうって言ってるんですけど、佐倉先生もどうですか?」
「あ、すみません。金曜はちょっと用事がありまして」
そうですか、と残念そうに笑う大月先生を見ながら、佐倉の頭には、真剣な表情で本を読む日和が浮かんでいた。
「じゃあ、失礼します」
「あ、大月先生」
佐倉は出ていこうと扉を開けた大月先生を呼び止めると、言った。
「あの、そのチョコレート…もう一つ頂いてもいいですか?」