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資料室の恋人
第1章 いつもの場所
「あ、三木さん、お疲れ様」
日和に気付くと、佐倉は少し微笑んで毎回こう言うのだ。彼は決まって一番奥の窓側の席で本を読んでいる。
日和はつられて笑顔で頭を下げた。
「佐倉先生、ここ飲食禁止ですよ」
日和が机に置かれた缶コーヒーを指差すと、佐倉はシーッと人差し指を口に当てた。
「バレなきゃいいの。でも三木さんはダメだよ」
「言われなくても私は飲みませんから」
少しだけ離れた席に座りながら日和が言うと、佐倉は楽しそうに笑った。
「今日は何を読むの?」
「これです」
日和は小声で「じゃん」と言って、本の表紙を見せた。
「生物学かー」
「最近好きなんです」
佐倉は俺も好きだなーと言った。
週1回、こうして佐倉と時間を共有するようになったのは、日和が大学2年生の春だった。