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資料室の恋人
第1章 いつもの場所
***
日和は手元を覗き込む男の顔を見た。
にこりと笑いかけてくる。
確か、新しく赴任した心理学の講師だったような。
「毎週ここに来て読んでるよね。本好きなんだ?」
「え!?」
なんで知ってるの!!と驚いた。
そこで、日和ははっとする。
「あの、もしかして、ここの鍵は先生が開けてたんですか…?」
「うん、そう。でもどうせ調べもののために毎週開けてたから、別にいいかなって。俺が居るの気付いてないみたいだったし」
資料室に通うようになって1ヶ月が過ぎていたが、自分の他に人が居たなんてまったく気が付かなかった。
資料室は綺麗に整頓されていたものの、その本の数から、壁一面の天井まで届く本棚の他に、取り敢えずと言った形で臨時の本棚がそこかしこにある。
奥まで行かなければ見えない箇所がいくつもあった。
にしてもこんなに長い間気づかなかったなんて…と日和は少し恥ずかしくなる。
「すみません、気が付かなくて…」
「大丈夫、面白かったから」
新任講師が笑う。
少しバカにされた気分になった。
それが顔に出ていたみたいで、ごめんごめんと謝られる。