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オレンジ色のまま脳みそに焼きつけて、焦がして
第1章 無邪気なオレンジ
言葉が出てこない。
頭の中がグルグルする。
洗濯機が洗濯物を回すみたいにグルグル。
電話の相手は冷たい口調で淡々と話す。
『ユリにあなた宛の預かり物があります。自分が死んだら渡してくれと頼まれていたものです。いつがご都合よろしいですか?』
氷みたいに冷たい口調。
私はカレンダーを見た。
専業主婦だから基本いつでも空いている。
カレンダーを見る必要はないのだが、私はカレンダーをジッと見た。
『あの、聞こえてます?いつがご都合よろしいですか?』
何も言わない私に電話の相手が苛ついた声を出した。
私はおでこに手を当てながら答えた。
ひどく頭痛がする。
「明後日。明後日なら」
『明後日ですね。では明後日』
「ば、場所は?時間は何時に行けば?」
『つくば駅の近くにある“あも“と言う飲み屋に13時頃来てください。場所は、もちろん分かりますよね?分からないなんて言わせませんよ』
あも‥‥‥。
その飲み屋の名前を聞いて余計頭痛がした。
ユリはあそこの厚焼き卵が大好きだった。
もうかなりの間ご無沙汰している。
まだやっているのか。
「分かりました。あもですね。ところで、あなたは誰ですか?」
『‥‥‥明後日会えば嫌でも分かりますから』
そう答えて電話の相手はブツリと電話を切った。
私は子機を握り締めたままただ立ち尽くした。
ユリを懐かしむ余裕がなかった。