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炎の薔薇
第10章 炎

 怒りの次にやって来た感情は深い哀しみだった。
完全に心が乱されて落ち着きが取り戻せなくなった。

 大声で和也夫婦を罵れたらどんなに楽だろう。

 もうすぐ麻央が学童から帰ってくる。

 こんなダメな母親でも必ず毎日食事だけは作っていた。

『ママ、美味しいね』と言って残さずに食べてくれるのが嬉しくて、どんなに疲れていても頑張れたのに今日は無理みたいだ。

 サンダル履きのまま自転車を漕いでコンビニへと急ぐ。

 カゴに詰め込んだのは弁当三つとビールや缶酎ハイの缶を合わせて六本とマルボロメンソールライト。

 会計をさっさと済ませて、自転車のカゴの中にコンビニで買ったものを詰めた。
それから少しでも落ち着きを取り戻す為、コンビニ前に設置された灰皿でタバコを吹かした。
 
 さっき和也に言われた事が蘇ってくる。


 あの情けないくらい怯えた声。

 苦しみを訴えるように絞り出した言葉。

 子供が捨てられないのは分かる。

 分かるけどその言葉に狡さを感じた。

 そう言えば私が引き下がると思ったのだろう。

 頭のいいあの人に教えてやりたい。

 夫婦生活を拒否されて、長い年月を経ているのなら、法律上離婚という手段だって取れるのだ。

 不倫に対しても、夫婦が破綻している状況ならば、それも裁判で訴えてやればいい。

 あんたがそうなってしまったのは、奥さんにも責任があるという事を証明出来るだろう。


 私達夫婦もとっくに破綻してる。

 破綻した二人が不倫して何が悪い!

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