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炎の薔薇
第10章 炎


 家に帰るとダイニングテーブルにコンビニ弁当を並べ、私はビールの缶を空けてグイグイと飲み始めた。

 何でもない顔を出来るほど女優にはなれなかった。

 暫くすると麻央が帰ってきて、私の荒んだ姿を見て何かを察したようだ。

 私の隣に座り、「いただきます」と言ってから、コンビニ弁当を食べ始め、「ママの会社のお弁当の方が美味しいね」と唐揚げを摘みながら言った。
「ママが休みたい日の為にコンビニ弁当があるんだよ」と素っ気ない返事で返した。

 申し訳ないが、今は放っておいて欲しい。

 それでも真央は私と会話を持とうとしてくれた。

「今日ね、算数の時間に九九の七段をやったんだけどさ、一番難しい段だって先生は言ってたんだけど、暗記してるから大丈夫だったよ」

「麻央はママと違って頭がいいからね」

「ママは算数嫌いだった?」

「嫌い」

この子は勘が鋭くてイヤになるよ。
今、こんな時に最低な母親に気を遣わないで欲しい。

「ママが使ってる石鹸で体洗うとクラスの子にいい香りだねって言われるの。
アクアマリンの香りなんだよって言ったら、麻央ちゃんお洒落だねって言われちゃった」

 『あぁ……そっか!』今まで洒落っ気の欠片もない男がアクアマリンの香りなんて漂わせたらおかしいと思われるよね……

 私が和也の浮気を発覚させる原因も作っていたわけね。

 酔った頭でここまでの経緯を自分なりに整理してみたけど、怒りの炎は私の心の中で燃え盛り冷静さを失わせた。

 
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