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炎の薔薇
第1章 偽りのシンデレラ
「個室で良かったわね。
和也さんに今言われた事、嬉し過ぎて他の人には聞かれたくない。
お洒落してきて良かったわ」
「そんな風に言われたら恥ずかしくなるやん」
私は和也を真っ直ぐに見て、コーヒーを一口ブラックのまま飲んだ。
甘さが広がった口の中にコーヒーの苦味が程よく調和する。
甘い台詞は不倫に酔ってしまう。
せめて苦味という現実を残す事で調和が取れるのかもしれない。
「うちの娘がね、小さなおもちゃの指輪を持っていたの。
誰から貰ったの?って聞いたら同じクラスの男の子に貰ったらしいのよ。
指輪って言ってもね、ガムか飴のおまけに入っているようなやつよ。
でもね、その指輪を宝箱に入れたり、指にはめたりを繰り返すの。
まだまだ子供だと思っていたけど女なのよね」
「可愛いね。いくつやったっけ?」
「9歳よ。私も宝箱を作らないとね」
更にブラックコーヒーを喉元に流し込んだ。
挽いた豆の香りと苦味を噛み締めながらも、甘さを求めていたのかもしれない。