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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
失意の底で呆然としていると、すっ、と襖の開く音がした。現れた藤田はその手に小さな紙袋を持っている。後ろ手で襖を閉め、歩み寄ってきた。
潤は携帯電話をバッグに戻し、胸にニットを引き上げる。
「服を着てください。風邪をひいてしまう」
微苦笑を浮かべて言った藤田は、法帖が置かれたままの机の前に腰を下ろした。紙袋を下に置くと、法帖を手にして眺めはじめる。服を着る様子を見ないようにするための配慮か、特に意味はないのか。その横顔は無表情だ。
潤は静かに立ち上がり、藤田の後ろに放置されているジーンズに歩み寄った。ふと視線を移し、彼の頭を見下ろす。黒い髪は情事のせいで少し乱れている。
今、この背中にすり寄り、髪を撫で回して思考を奪えば、この人はふたたび応えてくれるだろうか。そうしたら、二人一緒に力尽きるまでその腕の中に閉じ込めていてくれるだろうか。そんなふうに思いながら、潤はその場に膝を落とし、ジーンズの傍らで淫らに寝そべるブラジャーを手に取った。