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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
その所作が丁寧で美しいことは遠くから見てもわかった。数秒後、藤田はゆっくりと顔を上げる。きっと凛々しい表情を崩さずにいるに違いない、と潤は思った。
無意識のうちに左手に力を込めると、ラッピング袋がかさりと音を立てた。危うい均衡を引き裂くその音に反応した女将が、鋭い目をそれに落とす。
「私が処分しておきます」
女将はそれだけ言うと筋張った細い手を差し出した。
「……あの、これは」
なんと説明すればよいのかわからずに言い淀むと、すっと近づいてきた女将は続きを聞く気はないと言わんばかりに潤の左手からそれを奪い取った。
「そ、それはっ……先生の生徒さんが……」
「だからなんだというの!」
冷気を切り裂くような荒々しい声が放たれた。女将がこれほどまでに怒りを露わにする姿を潤に見せたのは初めてだった。