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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
潤は自覚する。脚が震えていることを。今にも崩れ落ちそうなほどに。寒さからなのか、それとも恐怖か。どちらにせよ完全に萎縮していることは明白だった。
女将は小さな息を一つ吐き、藤田を一瞥すると、潤に背を向け静かに言った。
「雪、たいして積もらなかったわね。明日には解けているでしょう。今のあなたたちと同じ」
突然の言葉に潤が息を呑むと、それを背中越しに感じ取ったのか女将は続ける。
「あの方との軽薄な関係など儚いものよ。すぐに解け、消える。跡形もなく。私の言わんとすること、わかるわね。誠二郎のそばを離れる覚悟がないのなら」
その名を耳にした直後、心が凍てついてゆく。流れる熱い血が凝固するように。盲目的に、中途半端な覚悟で夫以外の男に抱かれようとした、ずるくて汚い女が現実に引き戻される。