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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨
先に下駄を脱いで家に上がった藤田に続き、潤はパンプスを脱いで式台に上がり、しゃがんで靴の向きを直した。
玄関からすぐの、縁側に面した広い和室に通された。十二ほどの書道机が整然と並ぶ。今は誰もいないが、ここに子供たちが正座をして書を習うのだ。
長押(なげし)には師範免許状や賞状が額に入れて掛けられている。続き間の襖は閉められている。
「書道教室は初めてですか」
藤田が、穏やかな声で尋ねた。
「小学生の頃に、実家近くの先生のところでお習字を。先生のお宅の雰囲気と少し似ていて、懐かしいです」
「じゃあ落ち着いて書けるかな」
「あ、ええ、そうですね」
「さっそく書いてみましょうか」
手前に並ぶ机の列を見下ろし、藤田が言った。突然の提案と愉しげな笑みを向けられ困惑する潤に、「道具を取ってきます」と言い残した彼は部屋を出て廊下を奥へ進んでいった。