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滲む墨痕
第4章 一日千秋
一分も経たずに返信がきた。
“いいえ。美しいです。僕は好きですよ。”
潤は小さく噴き出した。
「また美しいって言った……」
呟いて、自分の書をじっと見下ろす。どう見ても醜悪ではないか。藤田はこれのどこに魅力を感じたのか。そう思うと、ふと直接その口から聞きたくなった。通話発信してしまおうか――その甘えを胸の奥に押しとどめ、返信を打つ。
“嬉しい。ありがとうございます。やっぱり藤田先生は褒めるのが上手です。”
画面上に連なる互いのメッセージにその文が追加されて数秒後、画面が通話着信時のそれに変わり、携帯電話が鈍い機械音とともに振動しはじめた。
どくり、と心臓が反応する。息を呑む。黒い画面に表示された、『藤田千秋先生』の文字。掌中で唸りつづける端末。続けざまに激しく打ち鳴らす鼓動の中、潤は無意識にあたりを見回してから、かすかに震える細い指で『通話』に触れた。