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滲む墨痕
第4章 一日千秋
受話口を耳に近づけて、静かに息を吸う。だが言葉を発する前に「潤さん」と呼ばれた。そうだ、彼はこんな優しい声だった、と一ヶ月ぶりに聴くここちよい音を噛みしめながら、潤は「はい」と吐息のような返事をした。
ふふ、と柔らかな笑い声が返ってくる。
『お久しぶりです』
「は、はい……お元気でしたか、先生」
『うん。まあまあかな。潤さんは?』
「私も、まあまあです」
互いに曖昧に答え、くすりと笑い合うと、藤田が話を切り出した。
『あなたのことですから、僕の感想をお世辞だと思っているんじゃないかと思いまして』
「い、いえ、そんな……。でも、美しくはないと思います」
『ははは、ほらね。だからどうしてもお伝えしたくて電話しました』
愉快げな声。そして一瞬の沈黙のあと、藤田はこう続けた。