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滲む墨痕
第4章 一日千秋
『抑圧と解放、欲望と苦悩、様々な感情で埋め尽くされた混沌。一見美しさとは無縁のような、紛れもない美です。とても美しい書でした』
じっくりと語りかけてくるその低い声に、潤は唇を薄くひらいたまま言葉を失くしていた。書に透過した心を覗き込まれている気分だ。
まるでそんな潤の様子を見て愉しんでいるかのように、藤田が電話の向こうで笑い声を漏らす。だが不意に彼は一つ咳払いすると、真剣な声で説きはじめた。
『前にも言ったでしょう。書道という芸術における美しさは人によって異なるのです。ほかの誰の目にどう映ろうと、僕はあなたの気迫溢れる作品を美しいと思います。どうしようもなく惹かれる』
最後の一言はひときわ熱を帯びて、重厚に響き、ぐらりと脳を揺さぶった。