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滲む墨痕
第4章 一日千秋
暗い静寂の中にたゆたう見えない繋がりをたぐり寄せるように、甘いため息が漏れたとき、向こうで息を呑む気配がした。
『……毎日、思い出していました』
静かな声が流れてくる。なにを、と潤が尋ねる前に、藤田は続きを発した。
『姿勢を正して書に向かう背中。着物姿に、綺麗なうなじ。それから……肌の感触と、香りと、声』
最初は穏やかだった話し声が徐々に色を変え、切なげにかすれた。その低音は体内を一瞬にしてめちゃくちゃにかき乱し、あの夜の情事を思い出させる。その熱情にすべてを取り込まれてしまいそうになる。
「私の、ことを……?」
『うん、考えていました。もう一度抱きしめたくて』
「……っ」
『一日一日がとても長く感じました』