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滲む墨痕
第4章 一日千秋
その心情を追いつめるように、美代子はにこりと微笑んだ。
「ずっと待っていたんだからね。誠二郎くんが帰ってきてくれるのを」
無害を装ったその言葉は、繕った関係に爪を立て、胸の奥に沈めた古傷を容赦なく掻きむしる。誠二郎は口元を歪めた。
「嘘だろう。あなたが待っていたのは俺じゃない。俺は身代わりだ」
「違う、私は最初から――」
「最初から?」
美代子の声を遮り、誠二郎は込み上げる嘲笑を漏らした。喉を押し上げてくる言葉を吐き出さずにはいられない。
「最初から俺じゃないんだよ。周りから期待されているのも」
「そんなこと……」
「兄貴が死んだとき、それが改めてわかった。親父は今でも兄貴に継いでほしかったと思っている。死ぬ間際になっても野島屋のことしか頭にない。俺のことはスペアくらいにしか思っていないのさ」
「誠二郎くん!」
声をあげるのと同時に腰を上げた美代子が身を寄せてくる。誠二郎がそれを認識するより先に、彼女はその細い手で誠二郎の頭を包み、自身の胸に引き寄せた。