この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
もし、あの二人が避妊をしていなかったら――。
「うっ……」
不意に吐き気を覚えた潤は、両腕で腹部を抱きながら道端にしゃがみ込んだ。
ひとけのない通りは静かで、自身の咳き込む音と荒い息だけが響く。嘔吐には至らなかったが、胸が焼けただれたような不快感が残っている。
何度も深呼吸をして息を整えると、滲む涙をひとぬぐいしてため息をついた。
責める資格はないのかもしれない。ほかに目を向けたのは自分も同じだ。そう思うと、おのずと藤田の顔が浮かんだ。
すると、それまで胸の奥で滞っていたなにかが、すさまじい濁流となって溢れ出るのを感じた。
――先生……昭俊さん……。
心の中で呼びかければ、ついに涙は堰を切ったように流れはじめた。