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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
潤はゆらりと立ち上がり、流れる涙をそのままにふたたび歩きだした。
すべて、彼らの掌中で踊らされていただけなのかもしれない。自身の知り得ない闇が、こうして一歩一歩踏みしめている地面の下に深々と根づき、この地域一帯を掌握しているような気さえする。
このままなにもかも放り投げて、この街から出てしまおうか。そうして藤田に誘われたとおり、あるいは彼らの思惑どおり、東京に逃げ帰ってしまおうか。
――違う。
俯けた顔を隠すように、結っていない髪がさらさらと揺れる。震える手でそれを耳にかけながら、潤は心の中で帰るべき場所を拒否した。
あの地は自分の居場所ではない。あそこへ逃げても、どこにも拠り所など見つかりはしない。