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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
一瞬の衝撃、そして妹は泣きだした。じんじんと痛む膝はみるみるうちに血を滲ませ、赤く染まった。
怖い、お姉ちゃん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お母さん、寂しい、もう帰りたい、家に帰りたい……。
言いようのない感情が混じり合い、涙になった。立ち上がらず泣きつづける妹に駆け寄った姉も、張りつめていた糸が切れたように突然泣き声をあげはじめた。
姉妹による決死の脱走劇は、その後あっさりと幕を閉じた。
通りかかった見知らぬおばあさんが、子供たちが道に迷って泣いていると思って自宅に連れ帰り、姉妹の家に電話をして母に知らせたのだ。母が車で迎えにくるまでの間、彼女はけがの手当てをしてくれたり、お菓子をくれたりした。
ずいぶん遠くまで来たと思っていた。だがそれは車なら十分もかからない“近所”だった。おばあさんは祖母の老人会仲間で、姉妹の顔も知っていた。