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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
数分は経っただろうか。いや、一分にも満たないかもしれない。
何者かの鈍い足音がした。ざっ、ざっ、と雪を蹴る。走っているのか、その音はどんどん近づいてくる。
潤はその場にうずくまり、息をひそめた。
「うわっ」
突如そばで聞こえたのは、まだ姿の見えない人物の驚いたような低い声。直後、どさりとなにかが地面に落ちる音がした。
恐々としながら、潤はひかえめに首を伸ばしてみた。
「あっ……」
そこには、石段にうつ伏せになって倒れる男がいた。おそらく雪に滑って前に転んだのだろう。予期せぬ光景に身体がこわばり、潤が息を凝らして見つめていると、男は呻きながら地面に腕を立てた。
ゆっくりと上体を起こし、気だるげに顔を上げたのは、やはり藤田だった。