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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
「僕はただ、想いつづけてきただけです。初めて見たときから」
甘さを含んだ低音が鼓膜を揺らした。
「……なにを?」
「なにって、あなたを」
初めて見たときから、あなたを想いつづけてきた――。愛に似た言葉を当然のように与えられた。
居心地が悪くなり身じろぎすれば、尻に当たる柔い存在を認めざるを得ない。まだ目覚めていないそれを意識しすぎて固まりながらも、潤は反論を試みる。
「……お、想っていただけなんて嘘じゃないですか。あんな、いろいろ、しておいて」
「うん。ごめん」
「また謝った……」
半ば呆れて呟くと、からかうように強く抱きしめられた。
背中を覆う厚い胸板、上体を囲う筋張った腕、横尻に添う引き締まった内もも――彼をたくましく形づくるすべての筋肉に閉じ込められる感覚は、なにものからも護られている安寧と、なにものからも遠ざけられてゆく閉塞を同時に感じさせる。