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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
信じてもいいのだろうか、彼は無関係だと。いまだ半信半疑から抜け出せず、潤は湯の中でこぶしを握りしめる。
肩から垂れる長い濡れ髪が水面に浮かんで漂っている。髪留めがあればいいのに、とつい気を揉んでいると、浮遊する毛束を太い指にすくい上げられた。
水滴を落とす毛先を愛でるように撫で整えた藤田は、黒く艶めくそれをかざした。
「筆みたいだ」
呑気な声が耳をくすぐる。
「じゃあ筆にしたらどうですか。赤ちゃん筆みたいに」
潤は考えなしに返事をしたが、藤田は興味深げに唸った。
「いいですね」
「え……」
「髪を切ることがあれば僕に教えてください」
「嫌です、そんな」
「約束」
「しません」
即座に拒否すれば、くすくすと笑われた。こそばゆくなり、潤はひそかに唇を噛みしめる。