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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
決して深い関係ではない。絶対的な信頼があるわけでもない。それでも、合わせた肌はしっくりとする。背に感じる鼓動は熱く響き、心を強く繋いで引き寄せる。
抗う気持ちを捨て、くたくたとしなだれかかったとき、それを待っていたように耳たぶを甘噛みされた。艶息を漏らせば、耳を離れた唇は肩に吸いつき、じゃれるように何度も口づける。
他方に首をひねり柔い刺激に耐える。ふと甘美な音が止み、首筋を濡れた舌が這った。
「あっ……」
耳に戻ってきた唇は、最後に一つ口づけを落とすと吐息まじりの言葉を発した。
「明日、一緒に東京へ行きましょう」
彼はまだ諦めていなかったのだ。
「……どうして」
こうまでして連れ去ることになんの意味があるのか。そんな疑念をもって呟いた潤に、藤田は固い声で答えた。
「あなたを一人でここに残したくない。中途半端な真似はこれ以上したくない」
静寂が訪れた。一呼吸置き、彼は感情を吐露するように震え声で言った。
「手放せないんだ……」