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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
「今日の宴会のことでちょっと」
「あ、はい」
どうやら怒られるわけではなさそうだ、と安堵したのも束の間、かけられたのは意外な言葉だった。
「君も宴会場のほうを手伝ってやってくれないか」
「え、だって、私は客室の担当……」
「美代子さんがいれば問題ない。もともと君は戦力外なんだし」
「……っ」
一瞬にして、潤の頭の中は不安と疑問と怒りで埋め尽くされた。
誠二郎は、「じゃあよろしく」と煩わしげに話を切り上げようとする。
「ちょっと待って。私だって一生懸命やっているのよ」
潤は帯の前で重ねていた両手を握りしめ、極力抑えた声で強く抗議した。しかし必死の訴えは届かなかったようで、誠二郎は眉間の皺を深くしてため息を吐く。