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官能書道/筆おろし
第3章 双鉤
 涼子はそれを聞いても何も言わず、黙って澄夫を見つめている。
 心臓が脈打つ音が、耳元でドクンドクンと響く。
 視線をそらさないでいるのが苦痛だった。

 ややあって、涼子が口を開いた。

「子供だと思っていたけど、澄夫くんもいつの間にか大人になっていたのね。
 もう高校生だものね」

 視線のきびしさが、ふっと和らぐ。

「これからは、一人前の男性として扱うことにするわよ」

「えっ?」

 その言葉の真意を確かめようと、澄夫は師の表情をさぐる。
 優しい笑顔がそこにあった。

「先生……あの、まだぼくを指導してくれるんですか?」

「あたりまえじゃない。
 澄夫くんみたいな才能のある弟子を他の先生のところにやったりはしないわよ。
 わたしって、こう見えてけっこう執念深いんだから。
 一度、これって決めたら、簡単に手離さないの」

「先生っ」

 今度こそ、本当に泣きそうになった。

「ありがとうございます」

 深々と頭をさげた。
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